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  1. 大成建設 山内隆司の 世界の風に吹かれて

大成建設 山内隆司の 世界の風に吹かれて(11)
ボスポラス海峡横断鉄道トンネル

週刊ホテルレストラン 2011年8月12日号掲載

はるかな歴史に彩られた街、イスタンブール。今、この街を東西に分けるボスポラス海峡直下に鉄道トンネルをつくるビッグプロジェクトが進行中。予想はされていたが、地中深くからイスタンブール7000年の歴史がわき出してきた。それは想像以上に貴重な発見の数々だった。

 トルコのイスタンブールは、東西文明が交錯する拠点として歴史的に重要な役割を担ってきました。塩野七生さんの『コンスタンティノープルの陥落』には、東ローマ帝国の首都として千年以上にわたって繁栄したコンスタンティノープル(現在のイスタンブール)が、15世紀、オスマントルコの侵略によって滅亡する様子がドラマチックに描かれています。イスタンブールには、歴史的事件の舞台となった遺跡が当時のままの美しい姿であちこちに残されているのです。

 イスタンブールの街は、ボスポラス海峡によってヨーロッパ側とアジア側に二分されています。今、私たちはこのボスポラス海峡下に地下鉄を通してヨーロッパとアジアを結ぶ海底トンネルの建設プロジェクトに携わっています。イスタンブール市民の日常の足として大きな期待が寄せられており、工事が完成すれば、19世紀にパリとイスタンブールを結んだオリエント急行が、文字通り初めてアジア側へと線路でつながることになります。

 プロジェクトは、コンクリート製の大きな函はこを海底に沈めてつなぎ合わせる沈埋トンネル工法で工事が進められています。既に海底での工事は無事終了。しかし、ヨーロッパ側の地下鉄駅の工事が始まると、遺跡が次々と発見され発掘調査のために工事が中断することもしばしば。

 地下には、この街の長い歴史を物語るように、発掘現場は異なる時代の遺跡が何層にも重なっていました。地表近くにはオスマントルコ時代の遺跡。その下には、4世紀ごろと思われる東ローマ帝国時代の港の跡が発見され、木製の船が出土したりもしました。さらにその下からは、紀元前16世紀から11世紀まで現在の小アジア地域を支配したヒッタイトの遺跡も見つかりました。ヒッタイトは人類で初めて鉄器を発明した人たちと言われ、古代エジプト軍と戦ったことがエジプトの遺跡に記されています。日本人が土器や石器を使っていた縄文時代に、彼らは鉄の武器を持ち、馬が引く戦車に乗って戦っていたのですから、文化レベルの違いには驚くばかりです。さらに、詳細な発掘調査によって、イスタンブールの歴史が紀元前5000年ごろまでさかのぼることも明らかになりました。

 世紀の発見に、発掘作業は慎重の上にも慎重に進められ、私が訪れたときには、300人もの人たちが小さな刷毛を手に注意深く遺物を検証していました。度重なる工事の中断で、プロジェクト全体に2年以上の遅れが生じていますが、考古学的に価値のある遺跡はトルコの人たちの注目を集め、トンネルプロジェクトを統括する大臣からも、貴重な文化財の発見に感謝の言葉をいただいています。あげくに、政府高官から発掘された遺物を展示する博物館を寄贈してほしいというジョークまで。

 イスタンブールの歴史的建造物が興味深いのは、こうした幾世紀にもわたる文化の変遷が身近に感じられることです。ビザンチン(東ローマ)建築の最高傑作と言われる「アヤソフィア」は4世紀にキリスト教の大聖堂として建てられたもの。15世紀、東ローマ帝国を地中海に追い落としたオスマントルコによってモスクとして改められ、壁を飾った精巧なモザイク画は漆喰で隠されました。イスラム教が偶像崇拝を禁じているからです。20世紀に入りトルコ共和国が成立すると「アヤソフィア」は博物館として一般公開されることとなり、漆喰がはがされ当時のままの美しいモザイクがよみがえりました。こうしてイスラム教の祭壇とキリスト教の聖母子像が同居する貴重な場所となったのです。もっとも、祭壇はメッカの方へ、母子像はエルサレムの方へ、異なる方角を向いていますが。

 イスタンブールのはるかな歴史を肌で感じながら進めてきたトンネルプロジェクト。現在、遺跡の発掘作業が終了し急ピッチで残りの工事が進められています。無事工事を竣工させて、トルコの歴史に新しいページを刻みたいと願っています。

山内隆司(やまうち・たかし)氏プロフィール
1946年6月12日、岡山県・邑久町(現瀬戸内市)に生まれる。府立天王寺高、東京大学工学部建築学科を経て、69年6月大成建設(株)入社。建築畑を歩き、ヒルトン東京ホテル、そごう川口店、センシティタワーなどを手掛ける。99年6月執行役員関東支店長、2002年4月常務役員建築本部長、05年6月取締役専務役員建築本部長、06年4月取締役専務役員社長室長などを経て、07年4月代表取締役社長、現在に至る。

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