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  1. 大成建設 山内隆司の 世界の風に吹かれて

大成建設 山内隆司の 世界の風に吹かれて(13)
十字軍とオスマントルコ

週刊ホテルレストラン 2011年9月9日号掲載

イスラムの人たちが、おカネができると金のアクセサリーに替えて蓄財するのはなぜか?ヨーロッパの都市が大きな城壁に囲まれていたのはなぜか?イスタンブールの金細工店で、山内社長は、数千年にわたる戦いの歴史に想いをはせる。

 イスタンブール、ドバイ、ドーハ。最近、仕事で訪れることの多いイスラムの国々ですが、どの街を歩いても目を奪われるのがまばゆい光を放つ金細工のお店です。地元の人たちは、少しでもおカネができると金のアクセサリーに替えたと聞きました。いざ紛争が起きたときに全財産を身につけて逃げるためだとか。彼らはもともと遊牧民ですから自国の通貨をまったく信用していません。かろうじて信じられるのはドルやユーロ。彼らにとっての基軸通貨はなんといっても金なのです。たとえおカネがなくても、ネックレスの鎖を一つ外すだけで、食べ物でも着る物でも好きな物と交換できるというわけです。いざというとき、金の延べ棒をナイフで小さく削り取っている暇はありません。やはりアクセサリーの方が重宝なのです。結婚祝いや誕生祝いに贈られるのも金細工。小さいころから金に慣れ親しんでいる彼らにはk24(純金)とk18の違いも、ひと目で分かるというから驚きです。たいていの日本人は、金無垢と金メッキの区別さえできないのではないでしょうか。

 彼らが財産を金に替えるのは、常に部族間の争いや異民族の侵略の危機にさらされてきたからです。11世紀から13世紀にかけて断続的に行なわれた十字軍の遠征。15世紀から16世紀には、逆にオスマントルコ帝国がヨーロッパを脅かしました。ヨーロッパやイスラムの人たちの長い歴史は、血で血を洗う戦いの歴史です。異民族の侵略によって故郷を捨てて逃げた人たちもたくさんいました。国が滅ぼされると、多くの人が奴隷として働かされました。そうなりたくなければ、是が非でも戦争に勝つしかありません。彼らは自分たちの国を守るために都市を囲むように城壁を築きました。パリやウィーンもかつては長大な城壁が街を守っていました。16世紀半ば、10万以上と言われたオスマントルコ軍の攻撃からウィーンの街を守ったのもこの城壁です。都市のさまざまな機能も城壁の中に集約され、市民も城壁の中に住んでいました。一方、日本の都市には大阪城などの例外を除いて、ヨーロッパの都市のような長大な城壁はつくられませんでした。合戦に負けて国を治める大名が入れ替わっても、田畑を耕し年貢を納める領民はとても大切にされたからです。彼の地の都市と日本の都市とでは、歴史的な成り立ちや構造が違うのです。

 彼我のビジネスに対する考え方の違いにも、こうした歴史と風土が深く結びついています。日本人が交渉下手なのは、日常的に交渉術が必要とされていなかったからだと言われます。相手が外国人でも腹を割って話せば分かってもらえる。そう期待しているのです。外国の土産店で値切り交渉が下手なのも、だまされやすいのも日本人です。かくいう私もある都市の料理店で出された日本語のメニューが、普通のメニューより値段が高かったことがありました。店主に問い質すと「日本人向けの特別メニューだ」とうそぶくのです。彼らに言わせれば、だます方ではなくだまされる方が悪いのです。日本には古くから「ツケ」文化がありました。江戸時代の経済はお米で税金を納める米本位制。一年間の「ツケ」払いができたのも、一年分の収穫をもたらす田畑をそのままにして逃げ出す人などいないからです。

 中東では、商売さえ一期一会。バザールの商人が明日も同じ場所にいるとはかぎりません。彼らは遊牧民の末裔(まつえい)なのです。

山内隆司(やまうち・たかし)氏プロフィール
1946年6月12日、岡山県・邑久町(現瀬戸内市)に生まれる。府立天王寺高、東京大学工学部建築学科を経て、69年6月大成建設(株)入社。建築畑を歩き、ヒルトン東京ホテル、そごう川口店、センシティタワーなどを手掛ける。99年6月執行役員関東支店長、2002年4月常務役員建築本部長、05年6月取締役専務役員建築本部長、06年4月取締役専務役員社長室長などを経て、07年4月代表取締役社長、現在に至る。

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