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  1. 世界のリーディングホテル

世界のリーディングホテルVOL12 ザ・セントレジス・ニューヨーク

週刊ホテルレストラン 2011年11月25日号掲載

世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。
これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。

 1912年4月、有名なタイタニック号の遭難という未曽有の海難事故があったが、“最も裕福なタイタニックの犠牲者”として多くのメディアに注目された人物がいた。その名はジョン・ジェイコブ・アスター四世、アスター家の当主でありセントレジスの創業者だ。“レディー・アスター”としてアメリカ上流社会のスターであったキャロライン・アスターの末息子がJ・J・アスター四世で、毛皮貿易から不動産業に進出したアスター家は当時世界屈指くっしの大富豪といわれた。

 J・J・アスター四世は聡明なビジネスマンといわれ、1904年に贅ぜいを極めた新しいタイプのホテルであるセントレジスを建設し、上流社会の人々のための洗練されたホテルのスタンダードを世界に示した。竣工した華麗なボサール様式のホテルはセントレジス流のバトラーサービスも加わり、「ニューヨークタイムズ」紙に“アメリカ最高のホテル”と太鼓判を押されたほどだ。当時、ニューヨーク最高層のホテルとして話題になったが、冷暖房施設や郵便配達用シュートなど画期的な先端テクノロジーを駆使したホテルでもあった。

 セントレジスにはホテルを代表する有名なカクテルとバーがある。フェルナン・プティオというヘッドバーテンダーが完成させた「ブラディーメアリー」だ。トマトジュースとウオッカという意外な組み合わせのカクテルで、ここでは「レッドスナッパー」の名で愛され、瞬く間にアメリカのカクテル界の定番となっていった。また、このバーの名前は“キングコールバー”「The King Cole」と呼ばれ、伝説的アーティストのマックスフィールド・パリッシュが描いた大壁画「Old King Cole」が由来である。イギリスの童話に出てくる“オールドキングコール”を題材にしたもので、バーに見事な和みと荘厳の空間を提供している。

 セントレジスは91年に1億ドルを投じ3年にわたる大改修を完了している。65室のスイートと164室のゲストルームを擁し、フレンチの名店と呼ばれた「Lespinasse」に代わってアランデュカス監修の「Adour」が新設され、メインダイニング「Astor Court」、メインバー「The KingCole」、スパ「Remede SPA」、重厚な居間「Cognac Room」、ビジネスセンター、トレーニングジムなど充実した施設を誇る。

 セントレジスはアメリカ国内で最も豪華な独立系ホテルとして営業していたが、60年にITTシェラトンに買収され同社のラグジュアリー部門の一員となった。98年にはスターウッドグループが誕生し、セントレジスもこれに参加。翌99年にセントレジス・ブランドが立ち上げられ、まず世界で5軒のセントレジスがスタートしていった。それから10年余りで規模は拡大し、全世界で24ホテル、4501室(2011年7月現在)の巨大グループに成長している。去年10月1日に大阪にも進出を果たし、そのホスピタリティーに評価が高まっていると聞く。非業の最期を遂げたJ・J・アスター四世は、今日の姿を見てどう感じ、何を思っているだろうか。セントレジスのさらなる発展・挑戦に期待したい。

筆者 小原康裕
ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健(株)代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。

※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel

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