世界のリーディングホテルVOL25　ザ・ペニンシュラ上海　The Peninsula Shanghai

週刊ホテルレストラン　2012年6月8日号掲載

世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する

　ペニンシュラの母体である香港上海大酒店有限公司「The Hongkong and Shanghai Hotels, Ltd」の発祥の地にザ・ペニンシュラ上海が戻ってきた。1880年代、アヘン戦争など西欧列強の干渉にさらされていた激動の中国大陸に、ユダヤ系イラク人の兄弟がやって来た。兄のエリー・カドゥーリーと弟のエリス・カドゥーリーだ。またたく間に商才を発揮して、銀行、不動産、ゴム園、ホテル業などで成功を収める。その後、共産中国の誕生で、カドゥーリー一族は香港に逃げ延びることとなるが、上海には当時三つのホテルを所有していた。アスター・ホテル「現・浦江飯店」、パレス・ホテル「現・和平飯店、南楼」そしてマジェスティック・ホテル「大華飯店」で、前二者は今も現存しているがオーナーは入れ替わっている。また、かつて一族が住んでいたカドゥーリー公邸「嘉道里公館」は、現在は上海市少年宮と呼ばれ一般に公開されている。そのカドゥーリー一族が60年ぶりに上海に戻ってきたという訳だ。

　中国大陸との関係では1990年初頭にパレス・ホテル「王府飯店」（現・ペニンシュラ北京）と提携していたが、今回2009年10月のオープニングはペニンシュラ上海の凱旋帰国の意味合いを持つ開業であった。立地は外灘源と呼ばれ以前は英国領事館があって、今も広大な領事館庭園が広がる場所に隣接している。つまり、ここから上海の外灘が始まったというエリアで、まさに上海最高の1等地というロケーションである。ホテルの正面エントランスは外灘側から北京東路に少し入った所にあり、1階部分は「The Peninsula Arcade」として25のブランドショップがぐるりとホテルを囲んで店を構える。また外灘側にも出入り口を設け、シャネルのショップとレストランのエントランスがある。

　ペニンシュラ上海はスイートを含め全235室で、上海屈指の広さを誇るゲストルームだ。建物は1920～30年代のアールデコ様式を取り入れ、新築でありながら高い天井と共にクラシカルな雰囲気を持つ。内装は中国人デザイナーをあえて排し、巨匠ピエール・イヴ・ロションを起用したエレガントなスタイルである。巨大な獅子像に迎えられロビーに入ると優雅なラウンジ「The Lobby」に目を見張る。香港と同じスタイルで、フロントやコンシェルジュデスクなど入り口にある事務的なものは、すべて背後のスペースに寄せてある。香港の著名なアーティスト、ヘレン・プーン作の立体感ある壁画が印象的だ。メインダイニングの「Sir Elly's Restaurant」にあるテラス席からの外灘の眺望や、「The Compass Bar」の趣ある雰囲気もお勧めである。

　巨大都市上海は、万博後も高級ホテルの建設、開業が続きその繁栄を謳歌している。外灘から望む浦東エリアがその中心で、上海一の高さになる上海中心大廈（地上高632m）も2年後の2014年に完成する予定だ。しかし、上海発祥の地である外灘源で、往時の激動の歴史を振り返るのも一興かと思う。あのカドゥーリー一族の発祥の地で。

筆者　小原康裕
ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健（株）代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテルレストランコンサルタント協会理事。

※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel

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