世界のリーディングホテルVOL33
マンダリン オリエンタルハイドパーク、ロンドン Mandarin Oriental Hyde Park, London

週刊ホテルレストラン　2012年10月12日号掲載

世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。

　ロンドンの憩いの場ハイドパークに面して建つ、赤レンガの壮麗な建物が際立つ名門ホテルである。ホテルの歴史は古く19世紀に遡り、1889年に設立された英国紳士の独身用高級アパルトマン「紳士クラブ」にルーツを求められる。1899年に大きな火災を起こしダメージを残したが大改修を施して、1908年には「ハイドパーク・ホテル」という名称のホテルとして再生した。1996年にマンダリン・オリエンタルホテル・グループに買収され、「Mandarin Oriental Hyde Park, London」（以下MO/HP）と改称している。続いて約6千万ポンドをかけて大リノベーションを施し、2000年5月に装い新たに再デビューを果たした。

　MO/HPは赤レンガが印象的な重厚なヴィクトリアン様式の建物で、高級アパルトマンとして開業したころの正面玄関はハイドパーク側に置かれていた。しかし、1908年に「ハイドパーク・ホテル」として再開した際、ハイドパークは王立公園であったため、公園内にいかなる広告物の設置も許されなかった。ホテル名を掲げる玄関が必要であることから、正面エントランスはこのときから反対側のナイツブリッジ側に移された。一方、元の公園側玄関は「ロイヤル・エントランス」として、以来、王室が許可しない限り使用できなくなっている。現在もホテルはこの伝統を守り、使用する際は英国政府の所轄部署へ許可を求めている。この様に英国王室とのつながりも深く、2005年にはサッチャー元英首相の80歳誕生パーティーがエリザベス女王臨席の下、ここのボールルームで催された。

　両側にマンダリンの「扇」プレートを見て年代物の正面玄関を抜けると、重厚な大理石のロビーに向かう深緑の絨毯が敷かれた正面階段が目に飛び込んでくる。エントランスホール中央に豪華なマントルピースが置かれ、階段両側にコンシェルジュデスクがある。左手に進むとレセプションカウンターのあるエレガントな小部屋が用意されている。レセプションからハイドパーク側に向かうと、左手にナイツブリッジを代表する人気バーの「Mandarin Bar」があり、その奥に去年新装開店した「Dinner by Heston Blumenthal」が店を構える。3ツ星レストラン「The Fat Duck」の伝説オーナーシェフ、Heston Blumenthalが手掛ける躍動的なオープンスタイルのキッチンで、14世紀から伝わるレシピに現代的なテイストを加えて再現したメニューが好評だ。また、NYの「Daniel」で絶大な人気を誇る3ツ星シェフ、Daniel Bouludのビストロ風レストラン「Bar Boulud」も高い評価を得ている。スパではESPA運営の「The Spa at MandarinOriental」が地階にあり、和の趣が漂う畳と椅子のスパ・ロビーがゲストを迎えてくれる。

　MO/HPは高級ブティックが軒を連ねるナイツブリッジで思わず目を奪われる圧倒的外観を持ち、100年以上の歴史を刻む華やかさと風格を兼ね備えたロンドン屈指のラグジュアリーホテルと言えよう。

筆者　小原康裕
ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健（株）代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテルレストランコンサルタント協会理事。

※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel

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