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  1. 世界のリーディングホテル

世界のリーディングホテルVOL58 ホテルアドロン Hotel Adlon

週刊ホテルレストラン 2013年10月25日号掲載

世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。

 ベルリンを代表するランドマーク、ブランデンブルク門「Brandenburger Tor」の真正面に威風堂々として建つ高級ホテルがホテルアドロンである。ドイツ・ベルリンのみならず、ヨーロッパのグランドホテルを代表する伝説的ホテルだ。アドロンの名は創業者であるマインツ出身のワイン豪商、ロレンツ・アドロン「Lorenz Adlon」に由来する。彼は皇帝ウィルヘルム2世にパリやロンドンのホテルに負けない高級ホテルの必要性を説き、ブランデンブルク門に面した一等地にホテル用地を確保させた。1907年10月、アドロンは各界の名士を招き皇帝ウィルヘルム2世の庇護を受け、自分の名を冠した当時最先端の設備を施した「Hotel Adlon」を開業させた。

 1920年代はプロイセン王国の絶頂期であり、アドロンはヨーロッパで最も有名で格式の高いホテルの1つとなっていた。ゲストブックには、エディソン、チャップリン、ヘンリー・フォード、ルーズベルト、アインシュタインなど錚々たる著名人が名を連ねる。アドロンは第二次大戦末期には一部を野戦病院として戦争を乗り切ったが、敗戦後の45年5月に東ベルリンに進駐して来たロシア兵の煙草の不始末により建物は全焼してしまう。時代は移り、分断国家ドイツはベルリンの壁崩壊後、90年に再統一を成し遂げる。東西ベルリンも統合され、再びアドロンに建設の機運が高まって来た。97年8月、新しいアドロンは先代の建物のあった同じ場所に再建され、ロマン・ヘルツォーク大統領臨席のもと再オープンを果たした。

 アドロンはブランデンブルク門のある広場「PariserPlatz」に面し、菩提樹で有名な大通り「Unter denLinden」に正面エントランスを配置したこれ以上望めない好立地にある。新設した真紅のキャノピーが伸びる玄関口を進むと正面に華やかなロビーラウンジがあり、左手にレセプション、コンシェルジュデスクと続いている。吹き抜けのラウンジを囲むように2階の回廊が取り巻き、ここからピアノ生演奏のメロディーが階下のラウンジに心地よく流れている。エントランスホールの右手にはブラッスリースタイルの「Restaurant Quarre」があり、夏場のテラス席から眺めるブランデンブルク門は秀逸だ。2階にはゴージャスなミシュラン2ツ星のファインダイニング「Lorenz Adlon Esszimmer」を用意している。創業者のロレンツ・アドロンから名付けられ、ベルリンを代表するレストランとして高い評価を受け連日予約客で人気を博している。そのほか、スパ「Adlon Spa by Resense」、プール・フィットネス「Adlon Pool & Gym」などウェルネス関連施設も充実している。

 アドロンは現在、ケンピンスキーグループ傘下のフラッグシップホテルであり、またLHWのメンバーホテルとして高い評価を得ている。先代の格調高い建物を忠実に再現し、創業時の伝統と格式を重んじる一方で、最新の設備と最高のホスピタリティーを兼ね揃える。ベルリン1920年代の黄金時代を経てドイツ東西統合後に復活を果たしたアドロンは、まさにベルリンの象徴と言えよう。

筆者 小原康裕
ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健(株)代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテルレストランコンサルタント協会理事。

※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel

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