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  1. 世界のリーディングホテル

世界のリーディングホテルVOL59 ホテルインペリアル Hotel Imperial

週刊ホテルレストラン 2013年11月8日号掲載

世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。

 世界には王侯貴族の館であった建物を改修し、新たにホテルとして開業する例はよく見られる。しかし王室の宮殿をそのままホテルに改装して貴賓客用の宿舎とした話はあまり聞いたことはない。ホテルの名はホテルインペリアル「Hotel Imperial」、ウィーン屈指の伝統と格式を誇るホテルである。インペリアルの盛衰は名門ハプスブルク家と密接に関わり、開業は1873年の4月まで遡る。この年、ウィーンでは万国博覧会が開催されることになり、皇帝フランツ・ヨーゼフ1世は放置されていた宮殿の一つをホテルに改装して「Imperial & Royal CourtHotel」としたのが起源である。

 建物はビュルテンベルク公のウィーンでの私邸として1863年に建築されたものだ。元々が宮殿であるから、パブリックスペースや客室の内装は壁面も天井も精緻な装飾で埋め尽くされている。特に、ロビー横から2階への階段ホールは大理石の柱が立ち並び、華麗なシャンデリアが煌めく壮麗な空間は圧巻としか言いようがない。赤絨毯の敷かれた階段を上がって行くと、踊り場の正面に白亜のビーナス像が置かれ、その上には館の主と言うべき皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の凛とした肖像画が掲げられている。階段を上り詰めた2階はスイートルームが並ぶ“高貴な館”「Belle Etage」と呼ばれ、ホールには彼のもう1枚の肖像画と妻エリザベート妃の気品ある肖像画が向き合って飾られている。

 インペリアルはウィーンの街を形造る“リンク”環状道路に面し、ウィーンフィルの本拠地である楽友協会「Wiener Musikverein」とはすぐ隣、国立歌劇場「Wiener Staatsoper」とは徒歩5分という好立地だ。筆者にアサインされた部屋は「Imperial JuniorSuite」で約50㎡の広さがある。ホテル正面ファサード側にあり、可愛い花々で飾られたテラスからウィーンの美しい街並みを眺めることができる。2002年には天皇皇后両陛下も訪欧の際にお泊りになられ、エリザベス女王をはじめ世界各国の元首、王侯貴族などがゲストブックに並ぶ。メインダイニングの「Cafe Restaurant Imperial」では、各国元首の来訪を記念したメニューを今年スタートさせた。ホテル創業140年を祝して創作した限定メニューで、日本では天皇陛下来訪を記念にした「StateVisit of Emperor Akihito of Japan-July 13th,2002」の特別メニューもあり是非お勧めしたい。レストラン隣にはメインバー「Maria Theresia」があり、気品ある宮廷時代のエレガントな雰囲気を漂わせている。

 ハプスブルク家はやがて衰退の時を迎える。妻エリザベート妃と弟マキシミリアンを暗殺で失い、皇太子フェルディナンドはサラエボで一発の凶弾に倒れる。これが第1次世界大戦の引き金となり、敗戦と共にハプスブルク家の帝国は解体して行った。しかし、1950年代には再びホテルは歩み始める。オーストリアは第2次大戦でも敗れ、民営のホテルとなってもインペリアルは“宮殿”の華麗さを保ち、迎賓館としての役割をいささかも変えてはいない。現在はスターウッドグループ傘下のラグジュアリーコレクションの一員として高い評価を維持し、日本の帝国ホテルとも友好関係にある。ハプスブルク家の残照が漂う歴史的名門ホテルに思いを馳せるのも一興である。

筆者 小原康裕
ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健(株)代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテルレストランコンサルタント協会理事。

※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel

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