週刊ホテルレストラン HOTERES WEB

  • TOP
  • ホテル&レストラン
  • 業界コラム
  • ホテルビジネスなんでも相談
  • バイヤーズガイド
  • HITS
  • ホテレス電子版
  1. 世界のリーディングホテル

世界のリーディングホテルVOL51 ザ・ピエール The Pierre

週刊ホテルレストラン 2013年7月12日号掲載

世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。

 ニューヨークで“最もエレガントなホテル”として評価されて来たザ・ピエールは、現在インドホテル界の雄、タージホテルズ・リゾーツ&パレスの傘下に入り、「The Pierre, A Taj Hotel」の名称となっている。ピエールの創業者チャールス・ピエール・カサラスコは弱冠25歳でアメリカに移民として渡り、父親のジャック・ピエールがモナコのホテルオーナーであった事からすぐさま事業の頭角を現した。パークアベニューでレストラン「Sherry's」の経営で大成功を収め、多くのパトロンを得て1930年に現在の地で「ザ・ピエール」を開業する。当時、“ニューヨークで最も美しい建物のモニュメントのひとつ”として賞賛され話題をさらった。あの“フランス料理の父”エスコフィエもゲストシェフとして招かれ、NYの上流階級のソサエティーに最高の料理を提供した。しかし1929年にアメリカを襲った世界大恐慌には勝てず、3年後にホテルは競売に掛けられてしまい、翌34年にはピエール自身も過労で他界してしまう。

 その後の変遷を経て、59年にピエールの客室の一部はプライベート・レジデンスとして女優エリザベス・テイラーを含む個人資産家に売却されている。81年にピエールの営業はフォーシーズンズホテルズ&リゾーツに引き継がれその隆盛を取り戻した。記念すべきピエールの創業75周年に当たる2005年にはタージホテルズの傘下に入り、1億ドルを費やして大改装を断行し、49室のスイートを含む全189室のゲストルームを擁すホテルとして2010年に新装グランドオープンした。

 ピエールと言えばトロンプ・ルイユ(だまし絵)が描かれたエレガントなサロン、“ロタンダ”「The Rotunda」は外せない。ロタンダとは円形の建物、円形の広間という意味を持ち、天井から壁面いっぱいに描かれた装飾は米国人アーティストのエドワード・メルカースにより1967年に制作された。この麗しきサロンで優雅にアフタヌーンティーを楽しむのがホテルの自慢であったが、現在この部屋は単なるホワイエとなってしまい以前の賑わいは残念ながら夢の中へ消えてしまった。同じくアッパー・イーストサイドの上流階級を顧客に持つピエールのメインダイニングも大きな変革を受けた。フォーシーズンズ傘下の時代は「Cafe Pierre」の名称で上品な雰囲気のフレンチダイニングであったが、タージホテルズ傘下に移行すると「Le Caprice」の名称となり、コンテンポラリーな雰囲気に転換された。そしてつい最近、あの伝説的レストラン「Le Cirque」の系譜を持つイタリアンダイニング「Cirio Ristorante」に改称して開業させている。

 ピエールはセントラルパークに面したアッパー・イーストサイドの歴史的保全地区にあり、これ以上望めないほどの理想的な立地を誇っている。建物はクラシカルなヨーロッパの香りが漂い、華麗なアールデコの装飾が随所に施されている。館内エレベーターはNYで唯一専任のアテンダントが案内するシステムを残しており、歴史に培われた高いホスピタリティー意識を維持していると言えよう。

筆者 小原康裕
ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健(株)代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテルレストランコンサルタント協会理事。

※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel

詳細をご覧になりたい方はPDFファイルをダウンロードしてください。

ついに公開!ホテレス電子版 年間8,000円で!過去1年分の記事が読める!キーワードの検索もできる!トライアル版は無料!

世界のリーディングホテル連載一覧

  • 小原康裕