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  1. 世界のリーディングホテル

世界のリーディングホテルVOL30 クラリッジズ Claridge's

週刊ホテルレストラン 2012年8月31日号掲載

世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。

 “バッキンガム宮殿の別邸”、“アールデコの宝石箱”などクラリッジズは尊敬を込めた別称で呼ばれることが多い。実に19世紀初頭のホテル誕生から200年目を迎えた、ロンドン屈指の歴史と格式をもつ名門ホテルである。ホテルの前身は1812年まで遡り、ジェームス・ミヴァートがメイフェアの一等地に建てたミヴァーツ・ホテルであった。時は流れ、70歳台となったミヴァートはホテル業から引退し、54年にロンドンの旧家に仕えていたクラリッジ夫妻にホテルを売却する。夫妻は上流社会においてハウスキーピングの何たるかを熟知しており、その経験を生かしてヴィクトリア女王をはじめ各国の王室関係の顧客をつかんで行った。

 やがてクラリッジ夫妻も老齢となり次世代への転換期が訪れる。次のオーナーとして登場したのが、ザ・サヴォイを立ち上げたリチャード・ドイリー・カートであった。先見の明があるカートは、クラリッジズの顧客層に目を付けホテルを買収して傘下に置き、98年にサヴォイグループの一員として営業を開始する。翌99年に当時としては最新の設備を誇る9階建てに建て替えられた。現在の建物の原型であるエレガントな外観と当時流行のアールデコ様式を取り入れた壮麗な内装に、“アールデコの宝石箱”という呼び名が定着していった。今もこの建物を描いた水彩画がレセプションデスクの壁に飾られている。

 伝統のホテル故に歴史的なエピソードも実に多い。王室との関係は、ヴィクトリア女王がクラリッジズに宿泊していたフランスのウージェニー皇后を訪ねたことに始まる。女王はクラリッジズにいたく感動し、叔父のベルギー国王レオポルド1世に手紙を書きこのホテルを絶賛した。その瞬間からクラリッジズは“非公式のバッキンガム宮殿”と呼ばれることになる。以来、英国が迎える国賓・公賓をもてなす晩餐会がしばしば行なわれ、現女王エリザベス2世をはじめ王室関係者も頻繁に訪れている。また、大正3年に上海から日本郵船の熱田丸で大志を抱いた若者がサザンプトンに着いた。ホテルの勉強を果たすため、はるばる日本からロンドンにやって来たのである。やっとのことでガラス磨きの会社に職を得て、最初の日に回されて来たのがクラリッジズであった。毎日黙々と玄関のガラスを磨いている青年の姿に感心したドアマンは、彼を人事担当者に連れて行ったところ運よく調理場の皿洗いの仕事を与えられた。このときから彼のヨーロッパでのホテル修業の第一歩が始まることになる。この若者こそ、今は亡き帝国ホテル元社長の犬丸徹三氏であった。

 日本の皇室とも所縁が深く、今年エリザベス2世の即位60年を祝賀する午餐会に出席した天皇皇后両陛下は、ここクラリッジズに宿泊なされた。このように長い伝統と格式に裏打ちされたホテルだが、時代に合わせた新しい試みも始まっている。ミシュラン3ツ星を獲得した時代の寵児ゴードン・ラムジーを招き、「Gordon Ramsay at Claridge's」をオープンさせた。また、ホテルを代表するラウンジ「Foyer」や「Reading Room」で多くの若いカップルが食事を楽しんでいる。クラリッジズの魅力はまだまだ尽きることはないようだ。

筆者 小原康裕
ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健(株)代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。JHRCA、日本ホテルレストランコンサルタント協会理事。

※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel

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